2010年11月29日

雪崩いろいろ。

ボストンに来て、今年雪が積もったらバックカントリー・スキーもする予定だ。
スキーだとクライミングでは行かないような、木のない雪の積もった斜面に行くことになるだろう。それに、気候条件が日本と違う。なので雪崩のリスクが高まるばかりか、前にもっていた知識・経験が通用しないかもしれない。そのため、最近は北米の雪崩について勉強し、雪崩に詳しい地元の人と話をしている。

そこで自分のいくつかの短所に気づいた。長くなるので詳しい内容はともかくだが、俺の考えが変わったところのうち、山岳部にとって有益であろうところについてここで少し書きたい。完全なる正論が存在しないので自由にコメントして下さい。

まず傾斜の意識。雪崩が発生する傾斜は一般的に30度から50度位だと知識として知っていたが、知らなかったのは、湿度が低いと50度程度の傾斜ではほとんど雪崩がないに対して、湿度の高い気候では雪が斜面にくっつきやすくなり60度程度でもでかい雪崩が生じる。さてと雪の斜面を登るとき、または上から見るとき、その傾斜は何度なのか言えるかどうか。俺は言えない。雪崩そうな傾斜かどうかは直感的に分かっている(つもり)だが、確かではない。今冬、傾斜計付コンパスを持って練習する予定だ。

弱いポイント。ほとんど雪しかない斜面に、寂しそうな岩が出ていると、その岩の下付近が弱いことが多い(=そこを踏むと雪崩やすい)。常識だけで考えると、岩が雪を抑える支点だと考えていたので、これを知らなかった。しかしこのタイプの弱層の発生現象が複雑で、湿度の高い気候(日本?)では逆の可能性もある。とにかく、リッジライン(まわりより高いところ)なら行ってもいい、下山のルンゼ、北向きの斜面なら避けたほうがいい、と言ったところだろうか。

弱層テスト。前は雪の柱を作って、それを上から叩くテストを参考にしていたが、これは雪崩の発生条件の一つ・雪の強度・しか計らないらしい。しかし強度は、雪崩が発生するのに必要なインパクト(丁寧に歩くとジャンプとの違いを表す尺度)しか意味しない。人が雪を踏んで一ヶ所の弱層を潰しても、雪崩になるためにはその一ヶ所の周りも連鎖的に潰れていかないといけない。このため、別のテスト("Extended Column Test" - ECT)がある:
奥行き30cm、幅90-100cm、深さ120cmのブロック(つまり普通の柱の幅3倍のやつ)を作る。これの片側に、柱テストと同じように上にスコップをおく。そしてそれを叩く。叩いて、雪が潰れた時、弱層沿いにクラックができれば、テストしたポイントが雪崩やすい。
http://www.youtube.com/watch?v=rwXW7NIzlBo
しかし、上記のECTは科学論文が少ない。ECTではなく、以下の少しもっとめんどい"Prototype Propagation Saw Test"がある。こちらのほうが発表されている科学論文(根拠)が多い:
まず四角い柱の強度テストでもっとも危なさそうな弱層を探す。つぎに、奥行き90-100cm、幅30cm、深さは弱層の下まで(つまりECTと同じ大きさだが90度回転)のブロックを作って、弱層を弱層沿いにスノーソーの刃じゃない側で切り始める。ブロックの半分未満で潰れたら、テストしたポイントが雪崩やすい。
http://www.youtube.com/watch?v=9hZEWscONG4
(これのコメンタリーでは、弱層は深いから雪崩が人間によってかなり発生させにくいが、もし発生したら、連鎖反応が強いため大きな雪崩になりやすい)

装備。今まではスキーをやっていたらビーコン必要、クライミング・縦走だけなら不要、と考えていた。そして今も、日本の状況では多くの場合、必要ではないと考える。なぜかというと、雪崩が発生しないルート選択がほとんどできるからだ。または、雪崩る斜面があるルートでも、天気の雪への影響を正しく判断できれば、危険な状態が大体避けられる。そしてヤバそうな時は、リーダーにロープ等紐をつけて、もし流されたらそれを頼りに探す。また、「ビーコンを持っているから大丈夫」と甘く考えて、もっとリスクを犯す可能性もある。にしても、例えば今年の三月の山行の二つ(前穂高と鹿島槍)で、実際に雪崩の危険があったと思ったし、今もそう思う。そしてどちらも、進もうにも戻ろうにも危険があった。こういうとき、選択が強いられると若干のリスクがどうしても出てくる。我々はどちらの賭けも勝ったが、可能性が低いにしても雪崩る場合に備えるのに越したことはない。そこで、必要ではないと書いたが、少なくてもフル装備のときは、200グラムのビーコンはそこまで重くないので持っていくべきかと考える。ビーコンを所有していれば、という話だが。そして2週間に一回以上練習しないとあまり意味がないらしい。ほかの装備ではAvalungという、埋もれた人の息が吸える時間を延長する装置もあるが、登山にはちょっとかさばって重いんじゃないかと思う。でも本当に流されたら命拾いかも。1パーティーに1個、どうしようもない時はトップに着せて、流されたら雪崩の跡を降りてビーコンで探す?

ではでは。雪崩について勉強しましょう。なかなか面白い。
--heiki
posted by sangakubu at 15:29| Comment(2) | TrackBack(0) | 雑記
この記事へのコメント
この種の雪崩講習会(日本雪崩ネットワークのもの)に、白馬で参加したことがある。下山途中で出会った愛知大学の学生が、別れた直後に雪崩に遭って遭難した。講習は、雪崩への認識を新たにさせる役に立つものでした。以降、雪山には必ずビーコン、ゾンデ棒(probe)、スコップ、アイス鋸は各人が持つ個人装備として持っていきます。ほかのパーティーを助けなきゃいけないこともあるし――あの日の下山の時、そのような可能性があった――。英語でも日本語でもよい必読といってよい文献がありますし――高橋喜平や若林隆三とか、勉強会を開きましょう。
ビーコンは、アメリカで買ったほうが圧倒的に安いです。私も自分でネットで購入しました。
Posted by 顧問 at 2010年12月08日 01:10
すごい体験でしたね。
クライミングでは軽量化による行動速度の向上、装備による精神面と事故への備え具合の向上の間でバランスを取らなければなりません。
私の経験から言えば、フル装備縦走の時、全員がビーコン、2人に1人がスコップ、2人に1人がスノークロー、2人に1人がスノーソー、2人に1人がゾンデを持つのが雪崩対策+軽量化の両面でいいバランスかもしれません。ビーコン、ゾンデ以外はテント敷地、雪洞、イグルー、デッドマンなどに使えますし。
テントの棒のゴム紐を伸びない紐に代えてゾンデとして使えたらいいのに・・だが世間の話じゃあまりうまくいかないらしい。
しかし持っていっても使い方を練習していなければ意味がないし、もともと雪崩について勉強が足りなければ意味もない。文献では、雪崩で完全に埋もれた場合(つまり、上記の装備が始めて役に立つ状態)でレスキューを行っても生存者は5割くらい。
ビーコンを持っていっても、それの一番の意味は遺体を探し出す探索隊の危険地帯での行動時間の短縮になるかもしれません。雪崩に遭わないのに越したことはない・・
いい日本語の文献を現役に紹介していただければうれしいです。
私もビーコンをアメリカで買いました。来週スイスに行きますが、アメリカよりもさらに安く売っていたら山岳部へのお土産として検討しようと思います。
Posted by heiki at 2010年12月09日 02:09
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